本文
アーバンスポーツ施設整備事業プロジェクト [始動編]
プロジェクト概要

アーバンスポーツ施設整備事業プロジェクト
近年注目を集めつつある「アーバンスポーツ」。スケートボードや3人制バスケットボール・3×3など、公園や街中のちょっとしたスペースを使って行われる都市型スポーツ全般を指す。10〜20代の若者を中心に人気が高まりつつある現状を踏まえ、競技者の練習環境を整えることに加えて、利用者の多い公園や道路で行われるスケートボードの危険性や騒音等の対策も考慮して、呉ポートピアパークおよび隣接する天応公園にアーバンスポーツ施設を整備することが決まった。整備するのは、スケートボードと自転車のBMX、3×3、ダンススポーツのブレイキンという、オリンピック種目を中心とする4種目の施設。2028年度早期の完成を目指し、工事がスタートした。
メンバー
アーバンスポーツ振興のため、初心者向け体験会や学校での出前授業などを企画・実施
スポーツ振興課
企画グループ
主事
2023年度入庁
N.S
競技者へのヒアリング、設計者・工事担当課との調整など施設整備全体のマネジメント
スポーツ振興課
施設グループ
課長補佐
1987年度入庁
K.S

五輪種目の都市型スポーツ専用施設を呉に
2018、2019年に広島市の旧市民球場跡地(現・ひろしまゲートパーク)で国際競技大会「FISE(エクストリームスポーツ国際フェスティバル)」が開催されたことをきっかけに、広島県が「広島をアーバンスポーツの聖地に」との方向性を打ち出した。呉市でも第5次呉市長期総合計画にアーバンスポーツの環境整備が盛り込まれたことに加えて、アーバンスポーツが東京オリンピックの正式種目として注目されたこと、競技に携わる市民から建設の要望があったことなど、いくつかの要因が重なってプロジェクトがスタートした。
注目度が高まっているとはいえ、まだ浸透しきれてはいない新しいスポーツ分野だ。K.Sさんによれば、計画当初は若干の戸惑いがあったという。
「正直、アーバンスポーツというものには全くなじみがなくて、名前は『スポーツ』でも趣味や遊び、カルチャーの部類という認識だったので、当初は『本当にスポーツ施設として整備するべきものなのか?』という疑問もありました」
競技の華やかさに見合った勢いのある滑り出しとはならなかったものの、2022年にニーズや候補地に関する調査が始まり、2023年度の終わり頃、同年に予定されていた呉ポートピアパークのリニューアル計画へアーバンスポーツ施設の整備も盛り込まれることが決まった。

予備知識0のスタートでも不安はなかった
大学進学とともに生まれ育った呉を離れ、旅行会社での営業や沖縄でのカヤックガイド等の仕事を経てUターンしたN.Sさん。金融機関に勤務した後、2023年に入庁し、スポーツ振興課に配属された。最初の2年間は施設グループで体育館やプール、グラウンドの夜間照明などスポーツ施設の修繕などを担当。2025年4月から企画グループに移り、予算・決算や手続きに係る庶務業務を担いながら、アーバンスポーツ施設整備事業を担当することになった。初めての大きなプロジェクト参加だが、とくに大きな不安や動揺はなかったという。
「1年間ともに仕事をしてきたK.Sさんと一緒なので不安はなかったです。ただ、アーバンスポーツ自体に今まで全く関わってこなかったので、そもそも呉市内に競技をする人がどのくらいいるのか、どういう競技をする人たちがいるのかも分からず、そんなところからのスタートでした」
課されたミッションは、継続的に活用される施設とするために、呉市内の競技人口を増やすこと。
「今はアーバンスポーツの振興を任せられていて、具体的には、体験会の準備、当日の運営などを担当しています。実は最初、『振興』を『進行』と勘違いしていて、2週間くらい『何をすればいいんだろう』と思い悩んでいました(笑)。間違いに気づいて、やっと『あ、そういうことか』と納得しました。こうすれば増える!という秘策があればいいんですが、残念ながらそんなものはないので、自分にできることを頑張るしかないかなと。体験会やイベント、競技者の方が呉市内の学校で行う出前授業などから裾野を広げるイメージを持っています。あとは、完成したらオープニングイベントを開催することを検討しているので、そのための予算取りなどもこれから着手することになると思います」

実際に使う立場の競技者に細かくヒアリング
K.Sさんが呉市役所へ入庁したのは、1987年。元号がまだ昭和だった頃だ。
「もう40年近く勤めています。2年前に役職定年になり、今は再任用の職員です」
現在は、スポーツ振興課で課長補佐として、アーバンスポーツ施設の整備事業全般をマネジメントしている。このプロジェクトが立ち上がった際は文化スポーツ部の副部長という任にあり、スポーツ振興課や文化振興課などをとりまとめる立場だった。
「2022年、ニーズ調査や候補地の検討・調査に着手しました。その結果、呉ポートピアパークに決まったのが2023年度の終わり。立ち上げから関わっていることもあって、引き続き私が担当させてもらうことになりました。ずっと携わってきたスポーツの仕事なので、違和感なく取り掛かれました」
施設の整備に向けた設計を進めるにあたっては、競技者と会って意見や考えを聞き取ることに多くの時間と労力を注いできた。
「市長から、市民の話をよく聞きながら進めるよう指示を受けていたので、私なりに、呉市内の競技者の話を十分に聞いてきたつもりです。種目によって、多い人とは10回以上会ってヒアリングをしました。例えばスケートボードは、セクションと呼ばれる障害物を設けるんですが、どんなセクションをどこに配置すれば良いかは私たち素人にはわかりません。なので、競技者にしっかりヒアリングをして設計事業者に伝えるようにしましたし、設計事業者も交えて話を聞く機会も持ちました。また、ブレイキンは新しくダンススタジオを建てるのではなく、既存の公園管理棟の改修で対応するので、扇形のフロアだけど問題はないか、床材はどんな材質が良いか、鏡の大きさや配置をどうしようかといった話から始めました」
せっかく造っても、活用されないのでは意味がない。新施設がただのオブジェと化さないよう、実際に使う立場の人たちから「こういう施設なら使いたい」という生の声を拾い上げることはプロジェクトにおいて非常に重要な作業だ。
「競技者の皆さんが新しくできる施設に愛着を持って、繰り返し使ってもらいたいという思いで取り組んでいます」

前例のない工事に向けて担当者と綿密に議論
プロジェクトは、施設の仕様を検討して設計し、工事を実施するハード面と、持続的に施設を運営するために体験会などを通して競技人口を増やすソフト面の両面が、同時進行している。前者の担当がK.Sさん、後者がN.Sさんだ。
「プロジェクトチームというような大げさなものではなく、主に我々2人が担当として携わっています。もちろん市役所としての事業なので個人でどうこうできるものではなく、我々が調整したり取りまとめたりしたものを、最終的にはスポーツ振興課や文化スポーツ部という組織で決定するという流れになります」
現在は、工事発注の設計書ができあがり、工事がスタートした段階。ここに至るまで、競技者からヒアリングして決定した施設の仕様を元に、スポーツ振興課のK.Sさんが整備担当課、設計事業者と話を詰めていった。
「工事は、例えばスケートボード場であればコンクリートを使った工事が主になるので土木整備課、ブレイキンの建物改修は営繕課という風に、整備を担当する課がそれぞれ発注作業を行います。我々は『こんなのがいい』『こうしよう』と言うだけなので、実際に整備する方は『好き勝手なことを言うな』と思っているかもしれませんね(笑)」
土木整備課は、普段は道路や急傾斜地、河川などの整備をする部署。スポーツ施設を造る機会は少ないため、コンクリートはどの程度の強度が必要なのか、表面の仕上げは道路と同じでいいのか、あるいはより摩擦の少ない滑らかな状態がいいのか、水はけはどうするのか、その水はどこに流すのか、傾斜は何パーセントの勾配にするのか……きめ細かい検討を繰り返した。
「議論になることはありますが、工事担当課は、基本的にこちらが造りたいものを造ってくれようとする姿勢なので、感謝しています。そのためにどうすれば良いかという前向きな話し合いの中で、何もないところから物が出来上がっていくのは非常にやりがいを感じますし、競技をされる市民の希望が具現化されていくわけじゃないですか。多少の苦労はあるのは、何の仕事でも同じこと。私は楽しくやらせてもらっています」
これまでの多くの部署、多彩な業務を経験してきたK.Sさんだからこそ、円滑に進められている部分も大きそうだ。
「土木部にも長く在籍していたので、整備する担当課の考えも一定程度わかるし、人間関係がある人もいるので、それもあってわりと楽しくスムーズにできている部分があるかもしれません」

体験会で感じた親と子どものリアルなニーズ
アーバンスポーツの振興を任されているN.Sさん。この5月に実施した小学生対象の初心者向けスケートボード体験会では、今後の活動を検討する上で鍵となる重要なヒントを得たという。
「参加者が約50人もいて、とてもびっくりしました。予約制ではなく当日受付のみにしたんですが、時間帯によっては断らなければいけないほどでした。子どもが欲しがってスケートボードを買ったものの、自分は教えられないし誰に習ったらいいのかもわからないから、こういう初心者向けの体験会は嬉しいと言ってくれた親御さんが何人もいたんです。やってみたい、習ってみたいというニーズがあるんだとわかって、よかったです。指導してくれる競技者の方と相談してみなければいけませんが、施設ができてからも体験会は継続していけたらいいなと思っています」
企画グループへ異動となり、プロジェクト担当となってから約3か月。市職員としても2年と少ししか経っておらず、まだ少しずつ環境に慣れつつある段階のN.Sさん。持ち前のポジティブさと明るさは、大きな飛躍を予感させる。
「これまでわりと小さい組織で働いてきたので、市役所に入って、1つの決定をするのにこんなに段階を踏まなきゃいけないのか、と驚きました。正直、最初は面倒くさいなと思ったこともあります。でも、これは個人に責任を負わせるのではなく、組織として個人を守るためなのだと今はわかるので、安心して仕事ができます。今はまだスポーツ振興課しか経験していませんが、市役所の仕事は多岐にわたるので、さまざまな部署を経験して、いろいろな立場の人のことを考えられる職員になりたいなと思います」
ともにプロジェクトを進める大先輩、K.Sさんの仕事ぶりから刺激を受けたり、学んだりすることも多いという。
「技術者の方々を取りまとめている姿を見て、とても尊敬しました。いろいろな部署での経験があって、たくさんの視点を持っているからこそ、各段階で気を配らないといけないポイントを熟知されているので、すごいなと思います。私も今からいろいろ経験して、目を養っていきたいです。目の前のことに日々追われがちなんですが視野を広く持って、実際に使う立場である市民の目線を忘れず仕事に臨みたいと思います」

体験し、魅力を知ってもらうのも我々の責務
競技者へのヒアリングが済み、その内容を反映した設計が完成。いよいよ整備工事に着手した。今、K.Sさんが向き合っている課題は、整備後の施設利用をいかに促進するかということだ。
「令和4年度のニーズ調査のとき、全市民対象に無作為のアンケート調査をした結果、アーバンスポーツの経験がある人は10%未満だったんです。なので、正直に言うと、オープンしてどれだけ施設が使われるんだろうかという不安もあります。最初だけ注目され、人が集まっても、その賑わいが継続しない恐れもあります。施設を造る以上は、より多くの市民の皆さんが喜んで使ってもらうために利用する人の裾野を広げていく必要があります。まずは多くの方々に経験していただき、その経験値を高めていくことも我々の仕事で、その責任はかなり重いんだろうなと思っています」
アーバンスポーツの特性上、ターゲットとなるのは10〜20代の若い世代。サッカーや野球は、試合を観たり学校でプレーしたりする機会も多く、友だちがしているからという理由で一緒に始めるケースも少なくない。放っておいても競技者は絶えることがない。
「アーボンスポーツはまだそういったことがないので、まずは、体験してもらうことが大事だと思っています。すでに広の横路小学校で『出前授業』を行い、ブレイキンのダンスを経験してもらう取り組みを始めています。面白いと感じてもらえたら、徐々に競技者が増えていくのだろうと。スケートボードの体験会も開催しました。BMXのスクールも始まっています。これらの取組は、今後も継続していかなければいけません」
こうした振興に向けた取組は、N.Sさんの担当。K.Sさんは現時点での働きを評価しつつ、さらなる積極性にも期待している。
「施設を造って終わりではないし、使ってもらうための働きかけは、完成してからスタートするのでは遅い。造る前から競技を振興する取組を始めなければいけないということで、前年度から既にスタートしています。そういった部分では、彼女の働きが大きいということになります。よくやってくれていますが、まだ手探りなのだろうと思います。自分がどこまで首を突っ込んでいいのかと遠慮している部分もあるでしょうし、振興と言っても何をどこまでやるか、迷いも感じているようです。これからは事務分担だとか担当にとらわれることなく、整備の方にもどんどん首を突っ込んでくれたらいいと思っています」

競技者も初心者も、誰もが活用できる施設へ
N.Sさん曰く、若い世代の居場所作りも、施設を整備する狙いの1つだ。
「競技者の方から、ブレイキンやスケートボードに出会えたから道を踏み外さずに済んだという話を聞いたんです。もし学校などに居場所がない子でも、何かやりたいことに出会える、ここに来たら好きなことを一緒にできる仲間がいるという場所になったらいいなと思います」
K.Sさんは、新しくできる施設が呉市の価値を高めることを期待する。
「人口減少、とくに若い世代の市外への転出が大きな課題になっています。もちろん、アーバンスポーツ施設ができることが呉に残る理由に直結することはありませんが、呉の魅力の一つになれればいいなと思っています。市外に向けても、呉市のイメージアップにつながればいいですね」
目指しているのは、県内に増えつつあるアーバンスポーツ施設の中で「呉の施設は違う」という存在。呉ポートピアパークの景観を生かし、スポーツ施設というより公園の一部のようにする予定だという。
「呉市にもBMXの全国大会で優勝するような高校生がいます。それは素晴らしいことですが、技術を極めるだけでなく、趣味でも遊びでもいいんです。真剣に競技活動をする人も、楽しみたい人、始めてみたい人も集いやすい場として、とにかく若者が集まる施設にしたい。他とは違う、呉市ならではの施設にできたらと思っています」
ついに工事が始まった。他のどことも似ていない、オンリーワンのアーバンスポーツ施設が呉に誕生する日は、もうすぐそこだ。











