平成28年度 総務委員会行政視察報告
期日
平成28年10月3日(月曜日)~5日(水曜日)
視察委員
林田浩秋(委員長),片岡慶行(副委員長),阪井昌行,中原明夫,福永高美,北川一清,森本茂樹
視察都市
月 日 | 視 察 先 | 調 査 事 項 | ||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
10月3日(月曜日) | 東京都墨田区 |
ふるさと納税とクラウドファンディングについて |
||||||||||||||||||||||||||||||
10月4日(火曜日) | 埼玉県秩父市 | |||||||||||||||||||||||||||||||
10月5日(水曜日) | 埼玉県深谷市 |
視察目的
当委員会では,「ふるさと納税とクラウドファンディングについて」を所管事務調査項目とし,特産品の拡大やサービスの追加,他市との連携などによる「返礼品の充実」,呉市のふるさと納税をどのように全国へ発信していくべきか,また,その手続をどうわかりやすく説明していくべきかの「広報のあり方」,クラウドファンディングのメリット・デメリットを検証するための「クラウドファンディングの可能性」の3点を論点とし,調査・研究している。
その論点をもとに,先進自治体の取り組みを参考とするため,視察を行った。
京都墨田区
(1)調査内容
墨田区は,世界的に評価の高い江戸時代の浮世絵師である葛飾北斎が,生涯のほとんどを区内で過ごし,多くの作品を残した地である。その葛飾北斎の作品を収蔵する「すみだ北斎美術館」の整備が平成元年に計画されたが,建設予定地の見直しや東日本大震災の発生により,計画は難航した。
そのような中,この美術館は「ハコモノ」でなく,世界の宝である郷土の偉大な芸術家の作品を保存・展示するとともに,観光・産業に寄与する地域活性化の拠点とするため,区は平成26年度予算で建設を打ち出した。
しかし,議会からは財政負担への影響を最小限にするため,美術館の開館までに,建設費約34億円のうち国や東京都からの交付金等を除いた区の負担分約5億円を寄附で賄うよう,附帯決議が付された。その附帯決議を受け,平成26年度には,区長のトップセールスにより約2億2,000万円を集め,平成27年度には,税制改正により個人からの寄附がしやすい環境が整ったことを契機に,インターネットを利用した寄附型のクラウドファンディングを導入し,約1億 6,000万円を集めた。
また,墨田区はもともとものづくりのまちであり,スカイツリーの開業に合わせて展開した「すみだモダン」を寄附金の返礼品とし,区が認証している高品質な伝統工芸品など,地元産品を取りそろえ,販路拡大やブランド化など産業振興の狙いも込めている。
(2)質疑応答
今後のクラウドファンディングの目標や見通し,収集した美術品の数や保管方法,全国へのPR方法などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
呉市には,世界的にも有名な「大和」がある。日本遺産の継承も促す中,平和の尊さを教えることや学べるようするために,大和ミュージアムや日本遺産登録に関連した事業展開におけるクラウドファンディングの活用ができるのではないか。
埼玉県秩父市
(1)調査内容
秩父市では,ふるさと納税を昨年度から本格実施した。寄附額は,平成26年度に 126万円だったものが,平成27年度は1億 2,544万円と約 100倍になった。寄附金増加のために取り組んだことは,ポータルサイトに掲載したほか,返礼品を5品目から46品目に充実したこと,支払い方法をコンビニ決済やクレジットカード決済など多様化したこと,記者クラブや広告業者に宣伝するなどし,PRを強化したことである。
また,寄附金はふやしたいが仕事はふやしたくないということから,ふるさと納税事務を業務委託により一括代行し,事務の軽減を図っている。
主な返礼品は,ゴルフクラブやカメラ,布団,酒類などであり,これらは多額の寄附に対する返礼品だが,かなりのニーズがある。
また,ゴルフクラブやカメラは,総務大臣からの過熱する特典競争への自粛通知の資産性の高いものに該当するが,これらは秩父市の地域産業であり,今後も継続していく。
そのほか,ふるさと納税の特典に「空き家の見回りサービス」と「墓地の除草サービス」を追加した。「空き家見回りサービス」は,シルバー人材センターに委託し,年4回の敷地内のごみ拾いのほかに,別途料金で庭の除草をするもので,寄附額は3万円以上5万円未満である。「墓地の除草サービス」は,障害者就労支援活動として障害者団体に委託するほか,シルバー人材センターにも委託し,作業は年に2~3回で,寄附額は2万円以上3万円未満である。
どちらも,遠方に住んでいてなかなか管理できない方や,長期間留守にしている方をターゲットとしているが,通常の特典と違い,社会的な課題解決につながる特典とした狙いもある。
現在,どちらも申し込みがなく,対象者層に情報が届いていないことが考えられるので,管理費請求の際にチラシを封入するなど工夫が必要だと考えている。
現状の課題と今後の展望としては,高額の寄附に依存していることや,総務大臣通知への対応,他自治体との差別化,寄附がふえることによる関連事務の増加,企業版ふるさと納税への参入である。
(2)質疑応答
ふるさと納税の返礼品としたサービスのオプション追加,広告への掲載時期や方法,企業版ふるさと納税の見通し,寄附者が希望する寄附金の使い道の割合などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
寄附額に対する返礼率を上げることや高額な特産品を返礼品に追加することのほか,サービスの追加による返礼品の拡充を行い,寄附額をふやす取り組みを行ってはどうか。
埼玉県深谷市
(1)調査内容
深谷市は平成26年2月の豪雪による農業被害が大きかったことを背景に,平成26年度よりふるさと納税を導入した。
平成26年度の寄附の件数と金額は 133件で約 230万円であったが,平成27年度には 3,069件で約1億 7,300万円であった。
この寄附増の要因は,税制改正のほか,返礼品を選定するためのインターネットによる国民人気投票である。
これは,投票を通じて,事業者間の競争環境を確保し,地域における商品開発力の向上と,地域資源の付加価値向上を目指したもので,平成27年度に2回開催したが,約1万票の投票があり,全国初の取り組みとして深谷市を全国にPRすることができた。返礼品のエントリーには,44事業者から81品目の申請があり,事業者の競争により,商業の活性化につながった。また,今年度は二つの取り組みを行っている。
一つ目は,申し込みサイトを案内する自動販売機を設置する取り組みである。これは,自動販売機で販売する飲み物にQRコードのシールを張り,スマートフォンなどでQRコードを読み込むことで申し込みページが表示される仕組みで,余り多くの寄附件数は期待できないが,観光地に自動販売機を設置することのPR効果は高いと考えたものである。今年5月に設置し,現在,実績は7件で8万 2,000円の寄附だが,当初想定したとおり,各方面から反響があった。
二つ目は,被災した友好都市を産業振興の側面から支援するため,返礼品に友好都市の特産品も加える取り組みである。
これは,復興支援プロジェクトとして,東日本大震災で被災した友好都市の岩手県田野畑村を支援するもので,市のふるさと納税に50万円以上の寄附をした方に,年間を通じて田野畑村の特産品を贈る仕組みで,この取り組みにより,田野畑村の特産品のPRと産業復興を支援している。
(2)質疑応答
QRコードつきの飲料水を販売する自動販売機の設置目的や運営方法,インターネットの国民投票による返礼品の選定方法,寄附金の使い道などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
自動販売機により呉市のふるさと納税を誘導することはおもしろい取り組みである。また,季節ごとに返礼品を贈る取り組みも参考になる点である。