平成30年度 総合交通対策特別委員会行政視察報告
期日
平成30年4月16日(月曜日)~18日(水曜日)
視察委員
阪井昌行(副委員長)、山上文恵、中原明夫、石崎元成、梶山治孝、岩原昇
視察都市
月 日 | 視 察 先 | 調 査 事 項 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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4月16日(月曜日) |
鹿児島県霧島市 | 地域公共交通網形成計画の策定、交通不便・空白地域におけるふれあいバス・デマンド交通の運行について | ||||||||||||||||||||||||||||||
4月17日(火曜日) | 熊本県熊本市 | 地域公共交通網形成計画の策定、市営バス事業廃止後の路線維持について | ||||||||||||||||||||||||||||||
4月18日(水曜日) | 山口県下関市 | 合併町地域における生活バス(定時定路線バス及び予約バス)の運行について |
視察目的
現在、呉市では、市の基本的な交通政策に係る指針として策定した「呉市地域公共交通ビジョン」の具体的な取り組み方針を示し、より実効性のある施策を計画的に推進していくため、地域にとって望ましい公共交通網の姿を明らかにする「呉市地域公共交通網形成計画」の策定を進めており、また、バス路線の再編や交通機関の転換、まちづくり等との一体性の確保など、今後の公共交通のあり方はどうあるべきかを検討していくことは喫緊の課題であることから、先進事例を調査することとした。
鹿児島県霧島市
(1)調査内容
霧島市では、平成28年3月に平成28年度から31年度までを計画期間とする「霧島市地域公共交通網形成計画」を策定、市にとって望ましい公共交通の姿を明らかにするとともに、まちづくり、医療・福祉及び観光振興等の多角的な観点から、公共交通のあり方を検討し、将来にわたり持続可能な地域公共交通ネットワークを構築することとしている。
平成28年度以降、国の補助金を活用し、地域公共交通の利用促進として、路線バス、ふれあいバス、JR等の公共交通網を一元化した地域別公共交通マップの作成、市内5地区10カ所での住民座談会やワークショップ等での直接的コミュニケーションによる利用促進活動の実施、地域公共交通のサービス見直しとして、ふれあいバスや市街地循環バスの見直し案の作成等を行っている。そのほか、公共交通啓発チラシや市の広報等を活用した利用促進、観光客の回遊促進を目的とした周遊バスの導入なども行っている。
今後は、霧島市地域公共交通会議において、進捗状況や達成状況の把握、分析に努めるとともに、公共交通を取り巻く社会情勢や市民ニーズの変化等に柔軟に対応できるよう必要に応じて計画の見直しや改善を行うこととしている。
ふれあいバスは、交通不便・空白地域における住民の移動手段を確保するため、各集落と地域拠点までを結ぶ路線で、平成17年11月の1市6町による合併に伴い、各コミュニティーバスを引き継ぐとともに、平成20年4月の溝辺及び福山地区での運行開始と同時に名称を統一した。6地区39路線をバス事業者に委託、29人乗り車両で運行し、運賃は1乗車につき大人150円、小学生80円となっており、停留所以外でも乗り降りできるフリー乗降区間も設定している。運行に当たっては、運行経費から運賃収入及び国庫補助金を控除した額を市が委託料として支払っており、平成28年度は約6,940万円となっている。
デマンド交通は、著しく利用者の少ないふれあいバス路線を廃止した地域及び交通空白であった地域の5地区5路線をタクシー事業者に委託、5人乗り車両で運行し、運賃は1回につき150円となっており、利用者は利用者登録と電話での事前予約が必要である。ふれあいバスと同じく、運行経費から運賃収入及び国庫補助金を控除した額を市が委託料として支払っており、平成28年度は約167万円で、ふれあいバス運行時と比べ、大幅な経費削減が図られている。
今後、ふれあいバスについては、路線再編を行ったにもかかわらず、利用者数が伸び悩んでいることから、利用促進の取り組みを強化するとともに、運行ルートの見直しやデマンド交通への移行等を行う必要が、また、デマンド交通については、乗合率が著しく低い地域があるため、何らかの制度設計の必要があると考えている。
(2)質疑応答
ふれあいバスからデマンド交通への転換を検討する際の基準、ふれあいバスにおけるフリー乗降区間設定の効果、霧島温泉等へ訪れる観光客の回遊促進、デマンド交通の乗降場所が路線廃止前のふれあいバスの乗降場所となっている理由、公共交通啓発チラシ作成の効果などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
地域公共交通網形成計画の策定後において、その目的である持続可能な交通体系を確保していくためには、地域別公共交通マップの作成、住民座談会等を通じた利用促進活動の継続的な実施などが必要である。また、合併前の旧町営バスを引き継いだ生活バスは、経常収支率の悪い路線について、今後、費用削減の効果が期待できるタクシー等によるデマンド交通への転換を検討していく必要がある。
熊本県熊本市
(1)調査内容
熊本市では、平成24年3月に公共交通の将来像を描いた「熊本市公共交通グランドデザイン」を策定し、鉄軌道を基軸とした基幹公共交通軸の機能強化、わかりやすく利便性の高いバス路線網の再編、公共交通空白・不便地域の解消などの取り組みを進めている。さらに、これらの取り組みを進めるに当たっては、公共交通に対する全市的な意識の共有化と市・交通事業者・市民等の参画と協働による公共交通の維持、充実に取り込む必要があることから、公共交通に特化した条例としては全国初となる「熊本市公共交通基本条例」を平成25年4月に施行している。
これらを踏まえ、熊本市及び嘉島町全域を計画区域として、将来にわたり持続可能で利便性の高い公共交通網を形成するために必要な取り組みを体系的に位置づけるため、平成28年3月に平成28年度から37年度までを計画期間とする「熊本地域公共交通網形成計画」を策定した。
公共交通活性化及び再生に向けた3つの方向性と3つの目標を掲げ、公共交通にアクセスしやすい区域の人口カバー率、公共交通機関の年間利用者数、目的地に公共交通機関を利用する市民の割合について数値目標を設定し、達成状況の評価・検証を行うとともに、施策の拡充や改善などを行うこととしている。具体的には乗りかえ拠点の整備、バス路線網の効率化、ロケーションシステムの導入、バリアフリー化、新たなコミュニティー交通の導入など18事業について検討、実施している。
計画は上位計画である熊本市第7次総合計画等の見直し時期に合わせ、計画期間の4年後、8年後を目途に見直しを実施する予定としている。
熊本市営バスは、九州産交バスの経営再建問題をきっかけに平成16年度から民間との競合路線の移譲を開始、平成21年度からは民間バス3社からのさらなる路線移譲や熊本都市圏での共同運行等の要望により共同出資された熊本都市バスへの路線の面的移譲も開始され、平成27年3月31日には昭和2年の営業開始から88年にわたる事業が廃止された。
平成16年度からの競合路線の移譲、平成21年度からの面的移譲、いずれも移譲後3年間は路線を維持する協定を結び、競合路線の移譲については、収益に貢献し得るとして路線維持のための補助制度はなかったが、面的移譲を行った熊本都市バスに対しては、移譲路線の運行に必要なバス車両や車載機、運行システム改修費などの初期費用を負担するとともに、会社全体での欠損に対する補助を行ってきており、平成28年度補助金は2億5,926万円となっている。今年度からは全ての路線移譲から3年が経過したことにより見直しを実施、路線別での欠損補助を行っている。
今後は、地域、事業者と連携をしながら利用率を向上させることにより、熊本都市バスの経営改善と利便性を考慮した持続可能な公共交通の維持を図りながら、補助金の妥当性や費用対効果を確保していくこととしている。
(2)質疑応答
市交通局が直営で運行している路面電車の今後の方向性、民間バス3社が共同出資して設立した熊本都市バスへの集約、熊本市公共交通基本条例の策定経緯と改正、公共交通空白・不便地域の現状と乗り合いタクシーの運行状況などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
現在策定中の地域公共交通網形成計画においては、乗りかえ拠点の整備、バス路線網の効率化、バリアフリー化など利用者の利便性向上を図る事業が推進できるような計画にしていくべきと考える。広島電鉄に対する経営支援補助金は路線別の補助であるが、路線の維持には不可欠なものであることから、熊本市のように利便性を考慮した持続可能な公共交通の維持を図りながら、補助金の妥当性を確保していく必要がある。
山口県下関市
(1)調査内容
下関市は、平成17年2月に1市4町が合併し、同年10月に中核市に移行している。
旧下関市は、サンデン交通による下関駅を中心とした路線バスが運行されており、旧4町においては、主にブルーライン交通による廃止路線代替バスと生活バスが運行されている。下関市の生活バスは、合併前の4町地区でそれぞれ運行を行っていたが、運賃、運行形態等がさまざまであったため、合併後5年を目途に制度を見直すこととし、平成20年2月に下関市バス交通整備計画を策定、バス不便地域の解消、サービス水準設定など、地域内バス交通計画の基本方針を定めて実証運行を開始、平成22年度から本格運行を始めている。
現在は、主に菊川地区、豊田地区、豊北地区で13路線(定時定路線型8路線、デマンド型5路線)を運行しており、運行形態は自治体が自家用バスの有償運送許可を受けて運行する自家用有償運送であり、運賃は平成30年4月2日からワンコイン化し、1乗車につき100円としている。
利用者は平成21年度2万7,613人であったが、年々減少してきており、平成28年度は1万8,269人、委託料は約4,648万円となっている。高齢化や過疎化による利用者の減少により、平成28年度においては目標としていた収支率10%以上を満たす路線は4路線のみという状況であったが、平成30年度からは運賃ワンコイン化による利用者増を図っている。これまで必要に応じて、路線や便数の変更を行ってきたが、利用者は通院、買い物目的の高齢者がほとんどで、固定客化している現状があり、定期的な利用者が入院、入所等で利用しなくなると年間利用者数の大幅な減少につながる傾向がある。
生活バスが運行されている地区の各総合支所においては、利用促進のためのチラシや時刻表の作成及び配布、アンケート調査の実施、利用実態説明会の開催、要望に応じたバス停の新設などに努めている。
また、豊北町粟野地域では、地元組織によりコミュニティータクシーが運行されていたが、利用者の大幅な減少により平成30年5月で廃止となった。
(2)質疑応答
合併以前の運行形態及び現在の収支状況、運賃ワンコイン化の経緯、路線再編及びフリー乗降区間、貨客混載などの検討状況、呉市のいきいきパスのような高齢者の外出を支援する制度の有無、コミュニティータクシーの運行状況や廃止後の対応などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
生活バスの利用者は年々減少傾向にあり、収支状況の悪化が懸念されているため、適宜見直しを行っているところであるが、利用促進のためのチラシ作成、アンケート調査等を実施し、利用者増を図っていくとともに、著しく収支率の悪い路線については、費用削減の効果が期待できるタクシー等によるデマンド交通への転換を検討していく必要がある。