平成28年度 産業建設委員会行政視察報告
期日
平成28年10月12日(水曜日)~14日(金曜日)
視察委員
上村臣男(委員長),井手畑隆政(副委員長),谷惠介,林敏夫,沖田範彦,岡崎源太朗,平岡正人,小田晃士朗
視察都市
月 日 | 視 察 先 | 調 査 事 項 | ||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
10月12日(水曜日) | ふるさと暮らし情報センター・東京 |
UIJターン希望者に対する情報発信について |
||||||||||||||||||||||||||||||
10月13日(木曜日) | 新潟県燕市 | 地域資源の情報発信について | ||||||||||||||||||||||||||||||
10月14日(金曜日) | 静岡県熱海市 |
視察目的
当委員会では,「地域資源を活用したUIJターンの促進について」を所管事務調査項目として調査研究を行っている。
これまで,UIJターンに活用し得る呉市の地域資源として,「空き家」,「農水産業」,「滞在型観光」を論点に,それぞれの地域資源の活用方法について委員間で議論を進めてきたところであるが,議論を進める中で,地域資源を活用するためには,まずその情報が移住希望者に届かなければ始まらないということから,新たに「地域資源の情報発信」を論点として調査することとなった。
ふるさと暮らし情報センター・東京
(1)調査内容
ふるさと暮らし情報センター・東京は,田舎暮らしを希望する都市住民と移住者を受け入れたい地域との出会いの場を提供する施設で,運営は,東京一極集中や人口減少が進む日本の再生を目指すことを目的に活動している認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが行っている。
センターで移住情報を紹介している会員自治体は44団体であり,そのうち,専属の相談員を配置して移住希望者に対する相談業務を行っている自治体は38団体に上る。
また,さまざまな自治体がふるさと暮らしセミナーを不定期に開催し,先輩移住者との交流や,自治体の担当職員による就業や住宅関係などの相談に応じている。なお,会員自治体は無料でセミナーを開催することができる。
最近の移住傾向は,これまで多かったIターンからUターンにシフトしており,特に20代,30代の若者にその傾向が見られるということである。また,リーマンショックまでは60代の利用者が多かったが,平成27年では30代が一番多くなっている。
また,移住先については,いわゆる田舎暮らしよりも地方都市への移住を希望する人が利用者の約半数を占め,希望する就労形態についても,農業,漁業等よりも企業への就職を希望する人のほうが多く,全体の6割以上を占めている。受け入れ側はニーズの変化に的確に対応する必要がある。
また広島県は,センター内に「ひろしま暮らしサポートセンター」を設け,認定NPO法人ふるさと回帰支援センターのプロパー職員と東京に駐在する広島県職員の2名が移住希望者の相談に応じている。
なお,広島県では首都圏からの移住希望者に対し,実際に広島県へ訪問するための費用を支援する片道交通費支援制度を設けている。
(2)質疑応答
移住希望者に対してどのような情報発信が必要かという質疑のほか,ふるさと回帰支援センターの会員数や移住希望者のニーズ,移住者を受け入れるためにどのような組織が必要かといった質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
現在,呉市はふるさと回帰支援センターの会員となっていないが,移住者のニーズを的確に把握し,効果的な情報発信を行うためには,呉市も速やかに会員となり,このセンターを活用することが効果的であると考える。
また,移住を希望する世代は高齢者から若年層にシフトしており,ニーズも,いわゆる田舎暮らしよりも,地方都市での就労を希望する人がふえているということがわかった。求人がふえている呉市にとって,地方都市で就労したい若年層をターゲットに的確な情報発信を行うことで大きな成果が上げられる可能性がある。
新潟県燕市
(1)調査内容
ア.産業観光の取り組み
平成25年度から燕市と三条市が共同で実施する「燕三条 工場の祭典」は,燕三条地域の名立たる工場が普段は立ち入りを禁止している製造現場等を一斉に開放し,参加者がものづくりの現場を体感することができる産業観光のイベントである。
4年目となる平成28年度は製造工場の「工場」に加え,農業の「耕場」,燕三条の産品を購入できる「購場」の全96拠点で実施した。来場者は約3万 5,000人,販売金額は 2,700万円を超えており,県内外に地場産業を広く発信している。
また,産業観光の受け入れ企業をふやす取り組みとして,産業観光受入体制整備事業補助金を創設し,パンフレットの作成や,見学者の安全対策のための施設改修等に必要な経費の一部を補助している。
イ.金属酒器乾杯運動
燕製品の技術力を発信し,地域産業の活性化を図ることを目的に,市内外の飲食店において,燕市で製造された金属酒器を使用して乾杯する習慣を普及させる取り組みを行っている。
パンフレットの作成や協力飲食店の開拓等,事業の推進業務は燕商工会議所へ委託し,現在,推進協力店は41店舗となっている。また,この事業を始めるに当たり,飲食店等が燕製の金属酒器を購入するため費用の一部を補助している。
ウ.短期滞在型インターン事業
燕市では進学を機に首都圏へ多くの若者が転出しており,大学卒業後もそのまま首都圏で就職する若者が増加していることから,首都圏の大学生にUターン,Iターン就職を促すための施策として,燕市に本社がある企業の見学,採用ガイダンスを中心とした1泊2日の短期滞在型インターン事業を実施している。
なお,この事業の参加者には東京~燕三条間の往復交通費を補助し,さらに新潟県外出身者には宿泊費を補助している。
参加者からは,燕市の企業が持つ技術の高さを知るだけでなく,企業と直接話をすることができたことで「就職先」としての燕市のよさを知ることができたという声が寄せられ,参加企業からは,この事業がきっかけで企業説明会や選考に申し込んだ参加者がいたこともあり,ぜひ次回も参加したいという声が上がっているということである。
(2)質疑応答
燕市の雇用状況や,金属加工技術の担い手育成に係る施策,産業観光についての効果や課題,今後の展開などに係る質疑に加え,短期滞在型インターンのベースとなっている「東京つばめいと」の事業内容や,インターン募集の方法などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
呉市は,燕市と同様ものづくりのまちであり,産業観光を推進することは,市のイメージアップのみならず,雇用があるという地元企業のアピールにもつながり,若者を呼び込むための施策にもなり得る。
また,燕市では,首都圏に住む地元出身の若者とSNSや交流会でつながりを維持しながらUターンを促すことを目的として「東京つばめいと」という事業を実施しており,短期滞在型インターンはこの事業の一環として行われている。「東京つばめいと」は,SNSの出身地検索機能を利用して首都圏に住む30歳以下の燕市出身者を抽出し,効率的かつ効果的な情報発信を行っている。
呉市も「くれ絆倶楽部」という同様の取り組みを行っているが,目的とターゲットを絞ることで,さらに効果的な情報発信を行うことができると考える。
静岡県熱海市
(1)調査内容
ア.ADさん,いらっしゃい!
熱海市は廃れた温泉地というネガティブなイメージを払拭するため,「営業する市役所」をキャッチフレーズに,市内産業の活性化や観光振興を推進するさまざまな取り組みを行っている。
この取り組みの一環として位置づけられた「ADさん,いらっしゃい!」は,民間企業出身の市職員が24時間 365日体制で行うロケ支援である。
ロケ地の情報提供だけでなく,宿泊場所や弁当の手配など,テレビ関係者を徹底的にサポートすることで「取材がしやすいまち」として重宝されることとなり,その結果,取材が増加し,テレビ等への露出が飛躍的にふえた。
平成27年度の取材件数は 110本で,3日に1度はテレビ番組で熱海市が取り上げられたことになる。その結果,テレビを見たことがきっかけで熱海市を訪れる観光客が増加し,昭和44年をピークに減り続けていた宿泊者数がV字回復している。
特に,今までは余り見られなかった若い世代の観光客がふえ,SNS等で情報発信をしてくれるおかげでさらに観光客がふえているとのことである。
また,観光を基幹産業としている熱海市にとって,宿泊客の増加は雇用を生み,さらに地価の上昇といった相乗的な効果を生み出している。
イ.A-biz
「A-biz」は,売り上げの向上や新事業など新たな取り組みに挑戦しようとする市内の事業者を支援する事業で,これまで行ってきた商店街や団体に対する融資や補助金などの財政的な支援から,「コストをかけずに知恵を出す」をテーマに,市の職員が商品開発や新規事業の支援を行う個店支援にシフトしている。
この事業は,「熱海市職員の本当の仕事は,公平性や法令に基づいた事務作業ではなく,熱海の強みを知り,熱海を売り出すことにある」という「営業する市役所」を進める市長の方針から生まれたもので,個人の店の売り上げアップに行政がかかわるという,行政の常識にとらわれない取り組みである。
なお,事業開始に当たってはスクラップ・アンド・ビルドを基本とし,従来実施していたイベントの廃止や利子補給制度の見直しを行っている。
(2)質疑応答
24時間 365日体制で行っている「ADさん,いらっしゃい!」について,その熱意の原点はどこにあるのか,成功の秘訣は何か,また,市民の反応はどうかといったことについて質疑が行われた。
また,「A-biz」については,市職員が個人の店の経営支援を行うときの問題点や,クラウドファンディング活用の可能性などについて質疑が行われた。
(3)呉市での展開の可能性
「ADさん,いらっしゃい!」は,民間出身の職員がひとりで行う,かなり型破りな事業であるが,大きな成果を出している。他市の成功事例を見ても,推進役はこのような人物であることが多い。呉市においても,こういった自由な発想を持つ人材を積極的に登用するとともに,既成概念にとらわれない組織風土を醸成することが鍵となってくるのではないか。
「営業する市役所」というコンセプトは,行政が民間企業の営利にかかわるという,これまでの常識では考えられないものであるが,最終的な利益は市民に還元されるという職員の意識改革は見習うべきものがある。
また,「A-biz」のような取り組みは,呉市においても,くれ産業振興センターで行っており,市の職員が熱意を持って企業とかかわることで,さらなる成果があらわれると思う。
また,「基幹産業の振興なくしてまちの振興はない」という担当者の言葉に大いに共感した。熱海市は基幹産業である観光の振興に取り組んだことでまちが再生した。呉市においても,基幹産業の「ものづくり」を振興することで,企業誘致や観光振興,定住,雇用の促進等に大きな効果をもたらすと感じた。